やあ、目覚めは如何かな? プリンセス。
とても、とても長く――深く眠っていたようだね。
きみがあまりにも良く眠っていたものだから、起こしてあげるのも可哀想だと思ってね……済まない。
どんな幸せな夢を見ていたのかな?
いや、聞かないでおこう。
……きみの夢に出てくる私に、嫉妬するのも恥ずかしいからね。
おや、どこからか鐘が聴こえてくるね。
そう、あれは毎年、夏の終わりを告げる鐘。
夕焼け空は次第にワインのような深い紅を宿し、
情熱的な夜の始まりを告げていた星空が擲たれた数多の思い出を秘めて切ない光を放ち始める、そんな季節だ。
ここは翔栄町のはずれにある飛行場。
何時頃こんなものが出来たのか、私は知らない。
でもここが、今月開催される修学旅行の出発点になっていることだけは聞いているよ。
年に一度、日常を離れた場所で新しい世界、新しい夢を見つける旅。
そんな楽しい時間が、きみと共に過ごせるならば嬉しいよ。
けれど、もし……
旅行に向かう飛行機をあるいは、わざと乗り間違えて。
きみと私、ふたりだけで見知らぬ場所への旅に出て欲しいと言ったら――
きみは、ついてきてくれるだろうか?
それが、もしもそのまま戻れないかもしれない旅だとしたら?
……冗談さ、気にしないで欲しい。
修学旅行先は見知らぬ土地だけど、きっときみを驚かせることをさせてもらうつもりでいるよ、プリンセス。
それにしても、これだけの規模の飛行場を簡単に作ることが出来るなんて……
いや、土地や建設技術の問題じゃなく、騒音や交通トラブル、近隣住民との軋轢などどうやって乗り越えたんだろうね?