朗読劇『永遠のクリスマスプレゼント』台本

こちらは12/22のキャラフレ内クリスマスコンサートにおいて魔法少女と大ひよこっこ団ステージイベント、男装アイドル「doubt」のトーク&朗読劇で使用した台本を、物語として読みやすく編集したものとなります。その為一部表現等が実際のイベント時と異なりますがご了承下さい。

 

 

※ ※ ※

プリンセス。
きみは子供の頃のクリスマス、サンタクロースに何をプレゼントしてもらったか覚えているかい?
今となっては幸せを積み重ねてきた記憶の彼方だろうか?
それとも暖かな優しさとともに今も大切にしているだろうか?

できれば私は、贈り物というものは大事にして欲しいと思っている。
この世界、モノを大事にできない人間は他人も大事に出来ないのだから。

とは言うものの、人の命がいつかは尽きるように、形あるモノも何時かは壊れて失われるのがまた世の定め。
けれどここに、永遠に壊れることのないクリスマスプレゼントが存在する。
今宵お届けするのは、そんな奇跡のような人と贈り物との物語。

 

今よりかなり昔、こことは別の場所でのあるクリスマスの日。
街は煌びやかな装飾に彩られ、楽しげな音楽がそこかしこから流れていた。

いつもよりも賑やかな街並みを行き交う人々のなかに、ひとりの少女が居た。

決して裕福ではない、むしろ貧しい家に育った少女に
サンタクロースがプレゼントを運んで訪れたことはない。
だから夢物語が具現化したようなその一日の終わりも
いつもと変わらない、寒さの厳しい夜だった。

仕事を終えて家に向かう途中、いつも通る路地裏で
偶然にも女の子は、打ち捨てられた小さな人形を見つけた。
星の光を宿したかのような黄金色の髪は宵闇のなかでも霞むことなく輝き、
薄紅色の頬と艶やかな肌は作り物とは思えないほど美しく見えた。

――きっと、誰かの落とし物なんだろうな

少女はそう思った。
これほどまでに美しく、愛らしい人形を棄てる者などいるはずがない。

――早く、持ち主のところに帰れるといいね?

そう笑って、少女は家へと帰っていった。

 

夜もすっかり更けて、いつものように粗末な食事を済ませ
床につこうとした少女は、ふと先程の人形のことを思い出した。

――あの子、ちゃんとお家に帰れたかな……

薄く寒々しいベッドに潜り込み目を閉じても
ぼんやりと浮かぶ、あの群青の瞳は
どこかで寂しさを訴えかけているようだった。

心がさざ波のようにざわついて眠りにつくことができない少女は、
夜の暗闇に目が慣れるのを待って、こっそりと部屋を抜け出した。

深く厳しい夜の暗さと冷たさのなかを、夕方に通りがかった路地裏へと向かう。
吐き出した瞬間凍りつきそうな白い息を弾ませて。

 

果たしてそこではあの人形が、変わらず冷たい路地に座っていた。

持ち主が取りに来なかったのだろうか?
少女は不思議に思い、クリスマスの喧騒も静まりつつある夜の街を、
人形を抱えながら歩きまわった。

――だれか、誰かいませんか――?

呼び声に耳を傾ける者はいない。

――この子を失くして、今も捜し歩いている誰か、いませんか?

少女は赤く染まる手を懸命に擦りながら、
辺りを見渡し次第にか細く、弱くなる声で辺りに呼びかけたが、応じるものは無かった。

仕方なく少女は人形を手に、凍える街をあとにした。

――今日は無理でも、いつか持ち主のところに返してあげるね

人形がどこか、微笑みを返したような気がした。

 

けれど、少女には別の、ある期待があった。
もしもこの子の持ち主が見つからなければ、探す事ができなければ……

この人形は私の子になってくれるかもしれない。

 

少女は人形を、部屋の隅にある痛んだ、壊れかけのチェストにしまい込んだ。

こんな高価な人形、万が一家族に見つかりでもしたら
盗みを働いたと疑われてしまう、それだけは避けたかった。
少女は凍えそうな路地に棄てられた人形を、持ち主に返すために
『預かった』のだから――そう考えることにした。

仕事に追い立てられる日々の中、
ときおり少女は人形を家族の目につかぬよう取り出しては
他愛も無いことを語り掛けたり、小さな櫛で髪を梳かしてあげたり、
服に付いた小さな埃を取り払ったり、
まるで母親が自分の娘にするように大切に扱っていた。

少女が今よりずっと小さかった頃、母にそうされたように。

――いつか、いつかあなたは持ち主のところに返してあげるね

けれど、その為に何をどうしたらいいのかわからないまま
日々だけが過ぎてゆき、翌年のクリスマスもその次も、
少女は人形を誰の目にも触れぬよう愛し、大切に扱っていた。

そして何度目かが過ぎたクリスマスの夜、
少女は確信に似た強い思いを抱くようになった。

――この子は、私へのプレゼント。
元の持ち主はサンタクロース、彼が、私にくれたものに違いない!

そしていつしか美しく成長した彼女が生家を出て独り立ちする時も、
その人形は出会った頃と変わらずに美しいままだった。

 

時は、更に過ぎてゆく。

幼かった少女はやがて美しい女性となり、新たな家族を手に入れた。
彼女の夫もよく働く男で、彼女もまた献身的に夫や子供達を支え続けた。

ささやかながらもサンタクロースに
子供たちの願い事を届けられるようにもなっても彼女は
あの人形を手放すことは無かったし、秘密のチェストに仕舞い込んだまま幼かった頃と変わらず愛し続けた。

語り掛ける話にほんの少し愚痴が増えたり、時には疲れた顔を向けても
人形は少女だった頃と変わらず静かに彼女に微笑み返す。

 

時は、更に過ぎてゆく。

幸せだった人生にもやがて、フィナーレが訪れる。
美しい女性もまた病に弱った老婆となり、
家族が更に増えたことに反して、彼女を孤独が支配するようになっていた。

既にベッドから身を起こすことさえ一苦労する、
彼女の世話をしてくれる孫娘だけには深く、けれど大切に隠している秘密を打ち明けてみようか。
そう何度か考えてはやはり固く口を閉ざしていた。

部屋に誰も居ない、もう何度目かもわからないクリスマスの夜。
彼女はどうにかベッドから身を起こし、あの人形を久々に手に取った。

……その時初めて、彼女の心に怒りの、憎しみの感情が芽生えた。

人形は、彼女と出会った遠い昔から今も変わらず大事にされていたおかげで
その頃のまま美しく、愛らしい姿のままだった。

――なぜ私はこんなに醜く、薄汚れた姿なのに――
お前はどうしていまもそんなに美しいのか!

愛した故の矛盾。
人間らしい感情。それが彼女と人形の最大の差異。

彼女は人形を抱えていた右手を振り上げて、床に叩きつけた!

音を立てて転がり、うつ伏せになった人形を驚きの表情で慌てて抱き上げた彼女は、
その時、声を上げて泣いた。

声にならない謝罪と、嗚咽のなかで。

――あなたは、本当に私の子なんだよね?

最期に彼女は、そう呟いたという。

クリスマスの夜は更けてゆく。

人形と出会う前には感じたことのない暖かさのなかで、
彼女はその人形を抱きかかえながら息を引き取った。
彼女の家族がそれを知ったのは、孫たちがサンタクロースからのプレゼントに歓喜の声を上げた翌朝のことである。

 

話は、これで終わりじゃない。

別の時間、別の場所でのあるクリスマスの日。
街は煌びやかな装飾に彩られ、楽しげな音楽がそこかしこから流れていた。

いつもよりも賑やかな街並みを行き交う人々のなかに、
ひとつの人形が打ち捨てられている。

人形の微かな記憶のなかに、同じような景色がある。
そして、人形であるはずの自分がなぜ、
そんなことを考えるのだろうと疑問に思った。

すると通りがかったひとりの女の子が、人形のほうに気が付いた。

見るからにみすぼらしい、貧しい家庭の少女なのだろう。

――まるで、私みたい

わたし? 私とは、誰だろう?
人形は、そんなことを考えた自分に驚いた。
人間のように何かを見、感じ、考える私は、人間なのだろうか。
そんな困惑を口にすることも顔に、体に表すこともできない私は、人形なのだろうか。

少女は辺りをきょろきょろと見渡しながら、おずおずとその手を
人形のほうへと伸ばして、その胸に抱え込んだ。

その時、人形はただひとつのことを理解した。

――今度は、私がこの子の慰めとなり、癒しとなり、

友と、家族となる番。

愛し愛され、生涯の秘密となる番。

そしていつかこの子を看取り、新たな人形になってもらうのが役目。

その時こそ、私がふたたび神様の祝福を受ける番。

幾代にもわたって、愛してくれるだれかの魂を宿し世界でだれか一人を幸せにし続ける、

『永遠に壊れることのないクリスマスプレゼント』

 

プレゼントを贈る誰かの愛と、それを受け取る誰かの幸せな感情はほんの一瞬のものでしかないのかもしれない。
けれど、その想いは確かにそこにあるんだよ。

忘れないで、プリンセス。

※アイキャッチ画像提供 photo-ac
https://www.photo-ac.com/

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