朗読劇『The shining polaris』

こちらは11/22開催のキャラフレ内翔愛祭ステージイベントにおいて、男装アイドル「doubt」のトーク&朗読劇で使用した台本を物語として読みやすく編集したものとなります。その為一部表現等が実際のイベント時と異なりますがご了承下さい。

魔法少女と大ひよこっこ団ではキャラフレ内で現在開催中の翔愛祭にてブース出展を行っています。
スライド映画『ヒロイン』と満足同盟制作作品『漂流の羽~非現実の王国で~』を題材としたPVを新規に作成し、皆様のご来場をお待ちしております。
宜しければ、そちらもどうぞご鑑賞下さいませ。

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プリンセス。
きみは、人の歴史を学ぶこと――世界の成り立ちを知ることは好きかな?

私は生憎、不得意分野だった。
言い訳するつもりじゃないけど実のところ、教科書や本に書かれている国や世界の語る歴史というものをあまり信じてはいないんだ。

……何故かって?
真実がこの世にひとつとは限らないからさ。

例えばライト兄弟が1903年に世界初の有人飛行を成功させた、とされる事実。
これは確かに、人類の革命的偉業とされている。

けれどそのライト兄弟より先に――
それこそ、何百年も前により優れた飛行技術が存在したとしたら?
また、存在したとしてそれはどうして後の世に伝わらなかったのか?

……誰かがそれを、隠蔽したのかもしれない。
後世に伝えるには、あまりに危険な技術だったのか?
名誉や称賛を得るよりも、独占欲を優先させたのか?
あるいは単に作った者の気まぐれか。

何れにしろ、私達の知る歴史とはより前の時代に生きた人々にとって都合の良い事実だけで作られているのかもしれない。証明する手段さえ、残さずにね。

きみがそんな事を考えたことがあろうとなかろうと、
未だ科学や物理学、論理学、哲学の追いつかない事象が世界の至るところに存在するのが翻ってその証拠だ。

確かに、にわかには信じがたいことだけど。
……私に、そう訴えかける『鳥』の声を聞いたことがあるのさ。

この世界には一箇所だけ存在するとされる、常に昼と夜の長さ、春夏秋冬の期間が均一な『聖域』と呼ばれる場所が存在する。

そこには『青の塔』と呼ばれる、何時の時代に建てられたかもわからない建造物が、風と草木のなかに存在する。

その最上部に『鳥』は存在する。
『鳥』と言っても外見は我々人間と変わりはない、深海を映したような瞳。
中性的な顔つきと癖のある短い髪。
小さく華奢な体には、それを包み込むような大きな羽が背中から生えていた。

この鳥は、囀る代わりに言葉を話す。
それは先人の大いなる知恵であり、神の託宣であり、私達が日頃抱くような幻想あるいは心躍る英雄譚や恋の物語だった。

ところがその『聖域』自体、実際に訪れた者は無く、
全てはそれこそおとぎ話や尾ひれのついた伝承だと、長い間信じられていた。
もしもそんな場所が存在したら良い、と願う人々の細やかな心の安らぎだった。
探して探して、そんなものは実在しないと絶望することを拒んでいたからだ。

そして長い長い時の間、ただそこに在り続けた『青の塔』に、ついに侵入者が現れる。
かれは、先生と呼ばれていた。それこそ優れた歴史家であり、冒険者であり、科学者であり、また小説家でもあった。

……いや、それらは全て後の世の人々がかれをそう呼んだに過ぎない。
かれはこの時、偶然耳にした『鳥』の噂をききつけその知恵、その託宣、その幻想にあずかろうとした。
かれの驚嘆すべきところは、『聖域』が存在しない、などとは考えなかったことだ。
飽くなき探求心とわずかな願いを信じぬく精神力、そして遠い苦難の道を物ともしない体力を併せ持つかれを『聖域』や『青の塔』は拒むことなく(或いは拒むこと自体を拒まれて)、『鳥』はあっさりその手に落ちた。

それから長い月日をかけて、『鳥』から欲したものすべてを手に入れた先生は巨大な籠、或いは牢のなかで弱りゆく『鳥』を世話させる為に奉公人の少女を『青い塔』へ迎え入れた。

塔の中には当時、いや今もなお解明されていない奇妙な動力源と物質さえも転送可能なネットワークが存在した。
先生は、塔はそれ自体がひとつの生命体だと考えた。

先生は、そのネットワークを経由し『鳥』から得たあらゆる知識や技術を外界に小出しにすることで多額の金を得ていたので、彼らが生活に困窮することは無かった。

そうして世に出た数々の情報が、現在までどのように伝わり、あるいは時の流れに埋没していったのかは、今となってはわからない。

……先程も言ったように、真実はひとつじゃない。
失われたものが、最初から存在しなかったものなどと証明する手段は無いのだから。

……それは例えば、辛い恋の思い出のようにね。

ともあれ、先生の探求は続き、
少女は『鳥』の世話を焼き、
『鳥』は餌と気まぐれな歌を口にしながらそれぞれの何不自由の無い暮らしは続いていた。

ある日、少女がいつものように『鳥籠』の掃除をしていると隅っこでうずくまる『鳥』の姿に気が付いた。

どこか痛いのか、と声を掛ける少女を突き飛ばし、
『鳥』は籠を飛び出して『青い塔』の最上階へ一気に駆け上がった。

窓を破り、翼をはためかせ空を舞う『鳥』は、名画のように彫刻のように美しかった。
その頂に吹きすさぶ風を一身に浴びながら遥か途切れ途切れの雲の下、広がる草原へと身を舞い踊らせる。

その地面に激突する寸前に再び身を翻し、
急旋回して塔の最上階へ、自ら破った窓から『鳥籠』へ何事も無かったかのように戻っていった。

その一部始終を少女から聞かされた先生は、

「何の意味があるのだ!」

激しい口調で『鳥』に詰問した。

とても冷めた目をした『鳥』は世界を裏返す儀式だ、と一言答えた。
先生にとって『鳥』の行為の全ては知恵であり、託宣であり、幻想でなければならない。
そのなんら意味の無い行為が行われたとき、有は無に、無は有に転ずるという――

即ち先生の情熱も、少女の安穏とした暮らしも脆く失われてしまうことを意味していた。

『鳥』とは決して覚めない、永遠に果てぬ夢を見続ける存在だった。
『聖域』とは夢に封じ込められた、何者も拒まず誰にも近づくことの出来ないと思われていた場所だった。

真実を覆す為に。
出口から注がれた水は入口から零れ落ちてゆく。
奇妙な青の塔から、喉に埃が詰まったような声で響く子守歌が流れる。

――失われ、忘れられる――

知恵とは編み出されるものでは無い。
初めからそこにあって、見つけ出されるのを待っているもの。

長い眠りから覚めるように『青の塔』を去った先生を迎えたものは、
名誉、名声、そして富であった。

たとえ『鳥』が世界を裏返しても、その叡智はこの地上に残されている。
けれど、それは先生が得た全てでは無い。

飽くなき探求心を失った先生は自分だけが知っている、
残された知識や技術は死ぬまで世に明かすことはなかった。

それらが広まっていればあるいは人々がより容易く命を奪い合ったり、
美しい自然と生物との共存をより困難にさせる時代がもっと早く来てしまったのかもしれない。

……ところで、そんな先生が隠しておいた知識のなかのひとつに
『鳥』の真なる名前が存在する。

そう、その名は――『天使』。

神と人とを結び、無垢な愛らしさと純粋な優しさに満ちた存在。
かれはそれが実在することを、少女に対しても決して口にしてはならないと命じた。

だから、今では『天使』は幻想やフィクションの中にしか存在しないと一般的には考えられている。

……ところが、今日ここに……
かれの目論見は破れることとなった。

なぜなら、プリンセス。

きみという天使が、
私のこんなにもすぐ傍にいるじゃないか!

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